制度を知って、すぐに動いた2013年
きっかけは、仕事量に対して人手が足りなかったことでした。加えて、日本人の若者の鳶職離れが進んでいたといいます。
「技能実習生制度を知ってから、すぐに新潟の送出機関を調べて、制度の仕組みを知り採用をはじめました」(今野さん)
2013年当時は、実習期間が3年、1年間に受け入れられる人数も3名までという制度でした。いまと比べれば選択肢の限られた時期です。それでも、知ってすぐに調べ、動いた。この判断の速さが、13年後の現在につながっています。
現在、鷹国建設ではベトナム・ネパール・モンゴル出身の19名が鳶工として働いています。在留資格の内訳は、技能実習2号5名、技能実習3号7名、特定技能1号4名、特定技能2号が3名です。
独自の試験と、母語での安全連絡
鷹国建設の教育の特徴は、自社で試験の仕組みをつくっていることです。入社から1か月、3か月、6か月、1年という節目ごとに、独自の試験を設けています。
受入れの現場では、教育が「先輩の背中を見て覚える」に留まりがちです。節目ごとに到達度を測る仕組みがあれば、本人はどこまで身についたかを自覚でき、会社側も次に何を教えるべきかを判断できます。13年の受入れ経験の蓄積が、この形に表れています。
もうひとつ徹底しているのが、連絡の伝え方です。日々の連絡事項やヒヤリハットの共有は、日本語だけでなく、それぞれの母語でも行っています。
鳶工の現場は高所作業を伴い、安全に関する情報がひとつ伝わらないことが重大な事故につながります。母語での連絡は手間のかかる方法ですが、「伝えた」ではなく「伝わった」状態をつくるための、確実な手段です。
業務外のつながりも大切にしています。バーベキューや忘年会といった会社行事に加え、お祝いごとがあればパーティーを開く。国籍を問わず、社員同士が顔を合わせる機会を意識的につくっています。
13年間、無断欠勤ゼロ
受入れ1年目は、言葉が通じず苦労の連続でした。状況が変わったのは2年目からです。
「二年目からは先輩実習生が間に入って通訳してくれて、とても助かりました」(今野さん)
この「先輩が通訳する」構造は、受入れを継続した会社にしか生まれません。最初の一人を迎える時期の負担は決して軽くありませんが、そこを越えた会社では、後から入る人材の立ち上がりが目に見えて早くなります。
仕事ぶりについて、今野さんはこう語ります。
「仕事も真面目で丁寧で、とても生産性が上がりました。13年間、無断欠勤は1日もありません」(今野さん)
13年間で無断欠勤ゼロ。制度や仕組みの話以上に、この一言が受入れの成否を物語っているのかもしれません。

[チュンさん]分からないことは、先輩に聞きながら一つずつ
リュウ ドゥック チュンさんは、2013年に技能実習1号として来日しました。以来12年間、鷹国建設で働き続けています。
「日本で働き始めた頃は、日本語や仕事のやり方に慣れることが大変でした」
乗り越え方は、特別なものではありませんでした。
「分からないことは先輩に聞きながら、一つずつ仕事を覚えていきました」
聞ける相手がいたこと、そして聞いていいと思える関係があったこと。当たり前のようでいて、これが最初の数年を左右します。いまチュンさんは、その「先輩」の側に立っています。
[チュンさん]できることを、もっと増やしていきたい
現在チュンさんは、特定技能2号(建設・とび)として、足場の組立・解体に加えて後輩の指導を担当しています。育児休業も取得し、3か月間ベトナムに帰国して家族と過ごしました。日本で働くだけでなく、生活の基盤をこの地に築いています。
これからの目標を尋ねると、こう答えました。
「これからも仕事を頑張って、もっと経験や技術を身につけたいです。そして、今までやったことのない仕事にも挑戦して、自分のできることを増やしていきたいです」
12年を経てなお「できることを増やしたい」と語る。その姿勢が、後輩たちにとって最も分かりやすい手本になっているはずです。

【解説】特定技能2号 ― 期間の上限なく働き続けられる在留資格
特定技能2号は、特定技能1号の上位に位置づけられる在留資格です。1号との最大の違いは、在留期間の更新に上限がなく、要件を満たせば家族の帯同も認められる点にあります。長期にわたって日本で働き、生活の基盤を築いていくことができます。
建設分野では、2号への移行にあたって試験合格に加え、班長としての実務経験が求められます。指示を受けて作業する立場から、現場で人をまとめる立場へ。役割の変化そのものが、資格の要件になっているということです。
鷹国建設には現在、特定技能2号が3名在籍しています。技能実習から始まった受入れが、10年を超える就労へとつながった実例です。
実習から特定技能2号へ。会社に積み上がる技能
鷹国建設の在籍状況を見ると、技能実習2号・3号から特定技能1号、そして2号へと、各段階の人材がそろっています。入ったばかりの人材にとっては、数年後・10年後の自分の姿が社内に実在しているということです。
外国人材の受入れを「一時的な人手の補充」と捉えるか、「10年先の担い手づくり」と位置づけるか。同じ受入れでも、この違いは数年後の姿に大きく効いてきます。チュンさんが後輩を指導している事実が、後者を選んだ場合に何が起こるかを示しています。
これから受入れを検討する県内企業へ
13年の経験を踏まえ、今野さんはこれから受入れを考える企業に向けてこう語ります。
「最初の1年は大変だと思いますが、インターネットやAIの進化でコミュニケーションは取りやすくなっています」(今野さん)
そしてもうひとつ、制度への誤解を指摘します。
「3年で帰国しなければならないと思っている企業の方々もいるようですが、試験に合格すれば何年でも日本で働けます。制度を理解して雇用を考えてみてはどうでしょうか」(今野さん)
「3年で終わり」というイメージは、技能実習制度が始まった当初の印象が残っているものです。実際には、特定技能1号を経て2号に移行すれば、在留期間の更新に上限はありません。チュンさんの12年が、その何よりの証明になっています。
最初の1年をどう越えるか。そこさえ乗り越えれば、先輩が後輩を教える循環が回り始めます。13年という時間をかけて鷹国建設が築いたのは、人手そのものよりも、任せられるという信頼のほうだったのかもしれません。
