「今困ってるなら10年後はもっと困る」――2014年の決断
2014年、ゴーナイエレックでは人材不足の兆しが見え始めていました。まだ現場が回らないほどではない。しかし郷内さんは、そこで先を読みます。
「今困ってるなら10年後はもっと困る、と思いました。今の内に外国人社員を迎えておき、将来に備えたんです」(郷内さん)
外国人材の受入れは、多くの場合「もう人が採れない」という段階で検討が始まります。しかしその時期に始めると、教育に手をかける余裕がないまま現場に投入することになりがちです。困る前に動く。この判断が、11年後の現在につながっています。
実際に受入れが始まったのは2015年。以来、現在は特定技能8名、技能実習生17名、そして元特定技能で配偶者ビザに切り替えた1名の合計26名が在籍しています。
共通言語は「日本語」。多国籍化という選択
ゴーナイエレックの受入れで最も特徴的なのが、意図的に多国籍化を進めている点です。理由は、日本語力の維持にあります。
「先輩社員がいると、どんどん日本語力が落ちてくるんです。だから多国籍化して、共通言語は『日本語』としました」(郷内さん)
同じ国の出身者が増えれば、母語で通じ合える相手ができます。本人の安心につながる一方、日本語を使う機会は確実に減ります。同郷の先輩がいることを利点と捉える会社は少なくありませんが、ゴーナイエレックはそこにリスクを見ました。国籍が混ざれば、社内で通じる言葉は日本語しかなくなる。多国籍化は、その状況を意図的につくり出す設計です。
どちらが正解というものではありません。ただ、受入れを長く続けるほど「同郷の集団ができていく」ことは避けられず、その先で何が起きるかを見据えた判断だと言えます。
翻訳アプリから、動画マニュアルへ
教育の方法は、11年のあいだに進化してきました。当初は翻訳アプリを活用。フィリピン出身者については英語が通じたため、想像していたほど困らなかったといいます。
現在は、動画マニュアルを作成して活用しています。
製造の現場では、文字で書かれた手順書よりも、実際の動きを見せたほうが早く正確に伝わります。動画マニュアルは一度つくれば繰り返し使え、教える側の負担も軽くなります。外国人材のためだけでなく、新人教育全般の仕組みとして機能する投資です。

「無理っす」と言われた作業を、2か月で覚えた
受入れを始めた当時のことです。若い日本人社員に新しい作業を教えようとしたところ、返ってきたのは一言でした。
「無理っす」
そこで、同じ作業を1期生に教えてみました。言葉はまだほとんど通じません。それでも彼女たちは、メモを片手に必死になって覚えようとしました。
2か月後、作業はできるようになっていました。驚いたのは、先に「無理っす」と言った社員でした。
「なんで彼女らができるようになってるんですか?」
言葉が通じないことは、覚えられないことと同じではない。この一件は、そのことを社内に示す出来事になりました。同時に、日本人社員にとっても自分の姿を映す鏡になったはずです。
その後も彼女たちはどんどん仕事を覚え、後輩に教えるようになりました。そして現在では、新しく入る日本人社員に外国人社員が教える場面も生まれています。
「非常に明るく、仕事も積極的な人材が多いです。言葉の壁はありますが、仕事を覚えようとする気力があるので、必ず覚えてくれます」(郷内さん)
「必ず覚えてくれる」と言い切れるのは、11年にわたって26名を受け入れてきた実績があるからです。最初の一人を迎える段階では、誰にもそう言えません。
挨拶がいちばん素晴らしい。そして「Respect each other」
社内の活性化にも、大きく貢献してくれているといいます。郷内さんが挙げるのは、意外なほど基本的なことでした。
「挨拶が一番素晴らしいのは外国人社員です」(郷内さん)
忘年会や歓迎会といった社内行事への出席率も、日本人社員とは比べ物にならないほど高い。喜んで参加してくれるのだそうです。
挨拶や行事への参加は、業務の成果として数字に表れるものではありません。ただ、職場の空気をつくるのはこうした積み重ねです。人が集まる場に人が来る職場と、来ない職場では、数年後の雰囲気が違ってきます。
一方で、7か国から人材を受け入れていれば、宗教や習慣の違いへの心配もあります。ゴーナイエレックの対応は明快です。外国人社員にも日本人社員にも、同じことを都度伝えています。
「ルールとマナーの遵守、Respect each other。これを都度、教育しています」(郷内さん)
配慮すべき事項を細かく列挙するのではなく、互いに敬意を持つという原則を全員に共通の基準として置く。国籍の数が増えるほど、この設計が効いてきます。
[カテリンさん]毎日、日本人と会話して日本語を覚えた
カテリン バウティスタさんは2015年に来日し、同年ゴーナイエレックに入社しました。現在は航空機内装品製造の主任として、外国人社員のまとめ役を務めています。
「最初は、皆さんの言葉が理解できなかったため、本当に大変でした」
乗り越え方は、逃げないことでした。
「私たちは、会社の期待に応えるため、毎日、日本人と会話をして日本語を覚えました。分からない事は、いつも周りの皆さんに聞いて日本語や文化を学びました」
「毎日、日本人と会話をして」。共通言語を日本語にするという会社の方針が、本人の側からはこう見えていたということです。方針が現場で機能していたことの、確かな裏づけになっています。
[カテリンさん]次は特定技能2号を取りたい
これからの目標を尋ねると、迷いのない答えが返ってきました。
「私は今、特定技能1号です。次は、特定技能2号を取りたいです。そして、これからもゴーナイエレックで働きたいです。これが私の目標です」
11年働いてなお、この会社で働き続けたいと語る。受入れの成否を測る指標は数字にもいろいろありますが、最も分かりやすいのはこの一言かもしれません。

【解説】特定技能2号 ― 期間の上限なく働き続けられる在留資格
特定技能2号は、特定技能1号の上位に位置づけられる在留資格です。1号との最大の違いは、在留期間の更新に回数の上限がなく、要件を満たせば家族の帯同も認められる点にあります。長期にわたって日本で働き、生活の基盤を築いていくことができます。
移行には、より高度な技能評価試験の合格と、複数の作業員を指導しながら業務に従事した実務経験などが求められます。指示を受けて作業する立場から、現場で人をまとめる立場へ。役割の変化そのものが要件になっているということです。
カテリンさんはすでに主任として外国人社員のまとめ役を担っています。日々の役割が、そのまま2号取得への道筋になっている形です。
ヤル気と実力があれば、リーダー職を
育成方針について、郷内さんの考えは明確です。
「ヤル気と実力があれば、リーダー職を与えていきたいと考えています」(郷内さん)
特定技能2号についても、会社として本気で取り組む姿勢を示します。取得を目指す人材にはサポートを行い、そのためのプログラムも検討中だといいます。
「特定技能2号へキャリアアップした場合は、正社員として、そして将来のリーダー職へ期待しています」(郷内さん)
「頑張れば道がある」と口で言うことと、正社員登用とリーダー職という具体的な行き先を示すことは違います。カテリンさんが「次は2号を取りたい」と語れるのは、その先に何があるかが見えているからでもあるはずです。
1期生を乗り切れば、絆ができる
11年を振り返って、郷内さんが強調するのは最初の期の重さです。
「1期生は企業も人材も、お互いに大変です。それを乗り切れば、企業と外国人材との絆ができます」(郷内さん)
そして、その後の展開が変わります。育った1期生が後輩の面倒をみてくれるため、2期生からは負担が軽くなるといいます。
受入れをためらう理由の多くは、この「1期生」の負担にあります。ただ、その負担は一度きりのものです。乗り越えた先に、後輩を教えられる人材が社内に残る。カテリンさんがまとめ役を務めている現在の姿が、その到達点を示しています。
町内清掃に若者が加わると、地域が変わる
取り組みは、工場のなかだけに留まりません。年に数回ある朝の町内清掃に、社員たちが参加しています。
「参加すると地域の方が喜んでくれます。ほとんど高齢者しか参加しないところに異国の若者が参加することにより、活性化につながります」(郷内さん)
地域行事への参加は、本人にとっては会社の外に顔見知りができる機会になり、地域にとっては担い手が増える機会になります。人口減少が進む地域ほど、この効果は大きく表れます。
支えているのは、日本人社員の細かい指導
ここまで見てきたのは、外国人社員の活躍です。ただ、郷内さんが最も強調するのは別のことでした。
「外国人がこれだけ活躍しているのは、細かい指導を続けてくれる日本人社員のおかげです」(郷内さん)
外国人社員が会社の一員としてしっかり育つには、日本人社員による細かい教育があってこそ。11年を振り返って、郷内さんはそう語ります。
動画マニュアルも、多国籍化による日本語環境も、それを日々運用するのは現場の社員です。作業の手順をひとつずつ伝え、できるまで見守り、間違いをその場で直す。表に出にくい積み重ねですが、これがなければ制度も仕組みも機能しません。
外国人材の受入れは、外国人材だけの話ではない。受け入れる側の社員がどう関わるかで結果が決まる。ゴーナイエレックの11年は、そのことを示しています。
これから受入れを検討する県内企業へ
最後に、これから受入れを考える県内企業へのメッセージを伺いました。郷内さんの言葉は率直です。
「今後、人材難はもっと加速します。早めに動いた方がいいです」(郷内さん)
そのうえで、3つの点を挙げます。どの国の人材にするかをよく検討して選ぶこと。日本人従業員にも説明し、仲間として受け入れること。そして生活支援をはじめとするサポートを惜しまないこと。
コストについても、包み隠さず語ります。
「日本人より人件費はかかると思った方がいいです」(郷内さん)
渡航や住居の準備、支援体制の整備、日本語学習の支援。人材そのものの賃金以外に、相応のコストがかかります。
ただ、郷内さんの話はそこで終わりません。かけた分は、それ以上になって返ってくる。「無理っす」と言われた作業を2か月で覚えた1期生は、いまや後輩を、そして新人の日本人社員を教える立場にいます。挨拶と行事への参加が職場の空気を変え、育った人材が次の人材を育てる循環が回り始めている。
「コストをかけた分以上に期待に応えてくれます。だから、どんどん増えるのでしょうね」(郷内さん)
困る前に動き、多国籍化で日本語環境をつくり、1期生の負担を乗り越えて絆をつくる。そしてそれを支える日本人社員の細かい指導がある。ゴーナイエレックの11年は、コストをかけた先に何が残るかを示しています。