人手不足と高齢化。受入れは「必要に迫られて」から始まった
建設業の担い手不足は、いまや全国共通の課題です。若年層の入職が細る一方でベテランの高齢化が進み、技能をどう次の世代へ渡していくかという問いが、規模を問わずすべての事業者に突きつけられています。とりわけ地域の工務店にとって、その影響は直接的です。少人数で現場を回している以上、一人が抜ければ工程そのものが揺らぎます。
小林建設が外国人材の受入れを始めたのは2015年のことでした。きっかけは、まさにこの人手不足と、日本人社員の高齢化です。
「若い担い手をどう確保するか。悩んだ末にたどり着いたのが、外国人材の採用でした」(小林さん)
小林さん自身、経営者であると同時に現役の職人です。自ら現場の最前線に立ちながら、採用と教育の両方に力を注いできました。制度や書類の話に留まらず、道具の持ち方から段取りまで、日々の仕事のなかで直接伝えられる。それが、この規模の会社ならではの強みでもあります。
教えるのは「先輩の通訳」から。社外とのつながりも支えに
入社直後、最初の壁になるのは言葉です。小林建設では、先に来日した先輩が作業指示を通訳しながら伝えます。手順をひとつずつ覚え、できることが増えるにつれて任せる範囲を広げていく。特別な仕組みがあるわけではありません。現場で手を動かしながら、地道に積み上げていくやり方です。
この「先輩が教える」構造は、受入れを継続してきた会社にしか生まれないものでもあります。最初の一人を迎えた時点では通訳役になれる社員がいないため、初期の負担は決して小さくありません。裏を返せば、その時期を越えた会社では、後から入る人材の立ち上がりが目に見えて早くなります。小林建設が10年をかけて手にしたのは、労働力そのものよりも、この「教えられる体制」だったのかもしれません。
もうひとつ、小林建設が大切にしているのが社外とのつながりです。他社で働く外国人従業員との交流や、取引先が主催するイベントへの参加を通じて、同じ立場の仲間と話せる場をつくってきました。
「仕事以外で相談できる相手がいることは、本人たちの安心につながっていると感じます」(小林さん)
職場と住まいの往復だけで日々が完結してしまうと、悩みを抱えたときの逃げ場がなくなります。会社の外に相談相手がいるかどうかは、定着を左右する要素のひとつです。地域の企業同士が横でつながることには、こうした意味もあります。
先輩・後輩ができ、技能が受け継がれていく
受入れを続けたことの効果は、職場の関係性にはっきりと表れました。
「先輩・後輩ができたことで、それぞれのモチベーションにつながっています」(小林さん)
教わる側には目標にできる先輩がいて、教える側には後輩に見られているという自覚が生まれます。職長レベルまで育てば現場を任せられるようになり、さらに後輩の育成も担ってもらえる。人が育つほど、次の人が育ちやすくなる。技能伝承の循環が、社内に確かに生まれつつあります。

[ヘルマワンさん]言葉と仕事のやり方に、毎日ノートで向き合った
「苦労したことは、言葉と仕事のやり方です」
ヘルマワンさんは来日当初をそう振り返ります。先輩の指示が分からない。安全ルールも難しい。建設現場では、指示がひとつ伝わらないだけで作業が止まり、ときには危険にも直結します。それでも、立ち止まりはしませんでした。
「毎日、新しい言葉をノートに書きました。分からないことは先輩に質問して、家では動画を見て勉強しました」
現場で聞いた言葉を書き留め、その日のうちに確かめ、家に帰ってからも学ぶ。派手さのない繰り返しですが、これを何年も続けられる人は多くありません。積み重ねの結果、いまでは日本語で会話ができ、仕事も遅れることなくこなせるようになりました。
[ヘルマワンさん]目標は「会社で一番上手な職人」
2018年9月の入社から約8年。技能実習1号から2号、3号へと進み、特定活動、特定技能1号を経て、今年ついに特定技能2号に合格しました。制度の階段をひとつずつ上がってきたことになりますが、本人の目線の先は、さらに上にあります。
「目標は、会社で一番上手な職人になることです。綺麗に、早く、安全に仕事をしたい。そのために、図面の読み方と正しいやり方を社長から勉強したいです」
在留資格の取得ではなく、職人としての腕を目標に据えている――この一言に、ヘルマワンさんがこの会社で過ごしてきた時間が表れているように思えます。
挑戦したいことを尋ねると、迷いなくこう答えました。
「日本語を勉強して資格を取りたいです。会社のために役に立つ社員になりたいです」

【解説】技能実習から特定技能2号へ ― ヘルマワンさんが歩んだ道のり
特定技能2号は、特定技能1号の上位に位置づけられる在留資格です。1号との最大の違いは、在留期間の更新に上限がなく、要件を満たせば家族の帯同も認められる点にあります。長期にわたって日本で働き、生活の基盤を築いていくことができる資格です。
建設分野では、この2号への移行にあたって試験合格に加え、班長としての実務経験が求められます。つまり、指示を受けて作業する立場から、現場で人をまとめる立場へと役割が変わっていることが、資格の要件そのものになっているということです。
ヘルマワンさんは、技能実習で来日してから約8年をかけてこの道のりを歩みました。長い時間に見えますが、その間ずっと同じ会社で働き続けてきたからこそ、班長・職長としての経験を積むことができたとも言えます。制度が用意した階段を上るには、上らせる側の会社に、その意思と時間が必要です。
班長から職長へ。特定技能2号を見据えた育成方針
小林建設の育成方針は明確です。受け入れた人材には、特定技能2号を目指してもらう。そのために、班長から職長へとステップを踏むキャリアパスを描いています。
前述のとおり、特定技能2号の要件には班長・職長としての実務経験が求められます。だからこそ、日々の現場で責任のあるポジションを任せていくことが、そのまま資格取得への道筋になる。育成とキャリア形成が制度と一本の線でつながっているのが、小林建設の考え方です。
外国人材の受入れを「一時的な人手の補充」で終わらせるか、「10年先の担い手づくり」と位置づけるか。同じ受入れでも、この違いは数年後の姿に大きく効いてきます。ヘルマワンさんが職長として現場を任されている事実が、後者を選んだ場合に何が起こるかを示しています。
これから受入れを検討する県内企業へ
10年余りの経験を踏まえ、小林さんはこれから受入れを考える企業に向けて2つの点を挙げます。
「可能であれば、現地へ赴いて採用する人材を実際に見ること。そして採用後は、外国人材の中でリーダーシップをとれる人物を育てることが重要だと思います」
書類や面接の記録だけでは分からないことがあります。現地に足を運び、本人と家族の生活や送出機関の姿勢を自分の目で確かめることは、採用後のミスマッチを減らす最も確実な方法のひとつです。
そしてもうひとつ、リーダー役を育てるという視点。受け入れた人材の中に、通訳ができ、後輩をまとめられる人物が育てば、会社の負担は目に見えて軽くなります。2人目、3人目を迎えるときの立ち上がりも早くなる。最初の一人にどれだけ手をかけられるかが、その後を左右します。
ヘルマワンさんという職長が育ったことが、小林さんの言葉の何よりの裏づけになっています。
人手不足への対応として始まった受入れは、10年を経て、会社の次の10年を担う人材づくりへと形を変えつつあります。同じ課題を抱える県内の企業にとって、小林建設の歩みは決して特別なものではないはずです。
