人員確保ではなく、経営戦略として
介護業界の人材不足は、年々深刻さを増しています。そのなかで、はあとふるあたごが外国人材の採用をどう位置づけたか。松井さんの言葉は明確です。
「外国人材の採用は単なる人員確保ではなく、将来を見据えた重要な経営戦略と考えました」(松井さん)
決め手になったのは、制度や条件だけではありませんでした。仕事への意欲、学ぶ姿勢、そして人柄。実際に人と向き合ったうえでの判断だったといいます。
現在、同社にはインドネシア、中国、ネパール、ミャンマー、ベトナム、スリランカ、バングラデシュの7か国から14名が在籍。在留資格も「介護」「特定技能1号」「特定活動46号」「永住者」「留学」と多岐にわたります。
最初のお二人が、教えてくれたこと
受入れの第一歩は、2022年4月でした。インドネシアから特定技能1号の介護職女性2名を迎え、県内の2施設に配属します。
しかし、お二人は1年で会社を去ることになりました。松井さんは、その理由を自分たちの側に見ています。
「当時の私たちには、外国人材を受け入れるための知識や経験、働きやすい環境を整えるための配慮が不十分でした。会社としてもっとできることがあったのではないか。こちらの配慮不足で退職させてしまったと思っています」(松井さん)
この経験から得たのは、採用するだけでは不十分だという学びでした。その後の支援、育成、職場環境づくりまで含めて考える必要がある。当たり前のようでいて、実際に人を迎えてはじめて分かることでした。
松井さんは、この出来事を失敗として終わらせませんでした。
「あのお二人が、受入れの在り方を見直すきっかけを教えてくれたのです。今振り返れば大きな転機であり、感謝しかありません」(松井さん)
そこで見えた課題と気づきを一つひとつ整理し、受入れ体制と支援の仕組みを組み立て直していく。この作業が、現在の採用と定着につながっています。以降、特定技能で入社した方の退職は一人も出ていません。
受入れの事例として語られるのは、多くの場合うまくいった話です。しかし実際には、最初の受入れでつまずく企業は少なくありません。制度の知識も、生活支援の段取りも、社内の受け入れ体制も、何もないところから始まるからです。
違いが出るのは、その後です。原因を本人の側に求めるのか、会社の側に求めるのか。はあとふるあたごは後者を選び、仕組みそのものを組み立て直す方向へ向かいました。次に採用したのが、いま4年目を迎えるトゥリさんです。
支援も紹介も、自社で。理由は「標準化」
2024年11月8日、はあとふるあたごは登録支援機関の登録を受けます。さらに2025年2月1日には、有料職業紹介事業の許可を取得しました。
登録支援機関を自社で持つことにした理由を、松井さんはこう説明します。
「支援機関それぞれの得意な国や、機関ごとのルール・対応に依存するのではなく、当社として外国人材を受け入れ、支援するための考え方やルールを標準化したいと考えました」(松井さん)
外部の登録支援機関に委託する場合、支援の質はその機関の方針や得意分野に左右されます。受け入れる会社側に基準がなければ、どこを通すかによって支援の中身が変わってしまう。標準化とは、その状態を脱するということです。
そこには、人事部そのものの役割を問い直す発想もありました。採用だけでなく、入社後の生活、就労、育成、相談、キャリア形成まで継続的に支援する。人事部を、外国人材の定着を専門的に支える部署にしたいという考えです。
有料職業紹介事業の狙いは、また別のところにあります。
「必要な人材を待つのではなく、私たち自身が求める人材を自ら探しに行く採用力を持ちたかったからです」(松井さん)
固定化された国や限られた採用ルートに依存せず、さまざまなルートを開拓し、いろいろな国の人材と出会う。そして一緒に働くなかで、それぞれの強みを生かしていく。7か国14名という現在の構成は、その考え方の結果でもあります。
「外国人の採用を外注するものと捉えるのではなく、採用から支援、育成、定着、キャリア形成までを自分たちの人事戦略として捉える。そのために必要な機能を自ら持ちたいと考えました」(松井さん)
外国人だけに、学びを求めない
2025年5月25日、松井さんは外国人雇用労務士の資格を取得します。外国人を雇用する際に必要な労務管理や在留資格、入管法、人権、採用、育成などの知識を体系的に学ぶ資格です。
取得を決めた背景には、明確な考えがありました。
「社員一人ひとりの成長が、会社の成長につながると考えています。それは外国人においても変わりません。外国人だけに学びを求めるのではなく、会社側も外国人を理解するために学び続けることが大切だと思っています」(松井さん)
受入れの現場では、学ぶことを求められるのはたいてい外国人材の側です。日本語を覚え、仕事のやり方を覚え、文化に慣れる。その非対称な関係を、受け入れる側からも学ぶことで変えようとした。この発想が、資格取得の出発点にあります。
そして、資格そのものを目的にはしていません。
「資格取得をゴールとするのではなく、外国人の採用や就労、生活、定着について学び続け、その学びを職場の仕組みづくりに生かしていきたいと考えています」(松井さん)
外国人材が安心して働き、成長できる環境を会社が整える。本人と会社が共に成長していく。その積み重ねが信頼を生み、長く働き続けてもらえる職場につながる。松井さんはそう考えています。
「『学んでいる』という姿勢を示すことで、外国人スタッフからの信頼を得やすくなったと実感しました」(松井さん)

「わかっているつもり」を、言語化する
外国人材を受け入れたことで、会社そのものが変わったと松井さんは言います。変化はまず、日本人社員の側に起きました。
教え方や伝え方を見直すきっかけが生まれ、業務の標準化も進んだといいます。
「わかっているつもりで済ませていたことを、相手にわかりやすく伝えるために言語化する。その積み重ねが結果として、日本人社員にとっても働きやすい環境づくりにつながっています」(松井さん)
例えば「見て覚えろ」で回っていた業務は、実は誰も手順を説明できない状態かもしれません。言葉にせざるを得ない状況が生まれてはじめて、暗黙のうちに共有されていたものが可視化されます。外国人材の受入れが業務改善の入り口になるのは、この理由によります。
教育面では、専門用語を分かりやすく伝え、理解度を確認しながら進めることを心がけています。写真や動画も活用しています。ただ、根底にあるのは別の考え方です。
「一方的に教えるのではなく、相談しやすい環境づくりを大切にしています」(松井さん)
「外国人だから」という枠で、見ない
変わったのは、社内の仕組みだけではありませんでした。松井さんは、自分自身の見方の変化についても語ります。
「受け入れる前は、言葉や文化の違いから、仕事を覚えるまでに時間がかかるのではないかと考えていた部分もありました」(松井さん)
実際に一緒に働いてみると、印象は変わりました。これまでの経験を生かして活躍する姿。仕事に対する真摯な姿勢。そうした場面に触れるなかで、見方が変わっていったといいます。
「外国人を『外国人だから』という枠で捉えるのではなく、一人ひとりの経験や能力、個性を見る。その大切さを、実際の職場での経験を通じて実感しています」(松井さん)
「今では、7か国もの外国人がそれぞれの強みを生かしながら一緒に働いてくれていることを、楽しみに感じています」(松井さん)
一方で、登録支援機関と人材紹介部門の責任者として、外国人材の人生やキャリアに関わる立場にあることの重さも感じているといいます。単に人を採用するのではなく、一人ひとりの可能性を見つけ、安心して働き、成長できる環境を会社として作っていく。それが人事責任者としての役割だと考えています。
[トゥリさん]毎日ノートにまとめて、復習した
トゥリ ヌルナエナーさんは2016年12月に来日し、東京の特別養護老人ホームで約1年半勤務した後、2023年5月にはあとふるあたごおぎかわへ入職しました。現在4年目です。
「働き始めた頃は専門用語や仕事の流れが分からず、コミュニケーションにも苦労しました」
介護の現場には、他の業種にはない難しさがあります。専門用語に加え、利用者一人ひとりの状態や、その日の体調に応じた気づきや判断が求められる。マニュアルだけでは埋まらない領域が大きい仕事です。
乗り越え方は、自分から動くことでした。
「先輩に自分から積極的に質問し、言われた単語やメモを毎日ノートにまとめて復習することで、少しずつ業務を理解できるようになりました」
「相談しやすい環境づくり」という会社の方針と、「自分から積極的に質問し」という本人の姿勢。この二つが噛み合ったところに、いまの4年目があります。
[トゥリさん]働きながら勉強を続け、介護福祉士に合格した
業務を覚えることと並行して、トゥリさんにはもうひとつ取り組んでいたことがありました。介護福祉士の国家試験です。
介護福祉士は、介護分野で唯一の国家資格です。試験はすべて日本語で行われ、介護の技術だけでなく、人間の尊厳や社会保障制度、医療的ケアに至るまで、幅広い専門知識が問われます。専門用語も漢字表記が中心です。日本語を母語としない受験者にとって、その壁は決して低くありません。
介護の現場で働きながら、その勉強を続ける。シフト勤務のなかで学習時間を確保することは、それ自体が簡単なことではありません。
そしてこの度、トゥリさんは見事に合格を勝ち取り、在留資格は「介護」に変更となりました。
来日当初、「専門用語や仕事の流れが分からず、コミュニケーションにも苦労した」と語っていた方が、その専門用語で問われる国家試験に合格した。メモを取り、ノートにまとめ、復習を重ねてきた日々の延長線上に、この結果があります。
[トゥリさん]家族を呼びたい。だから、日本語を
これからの目標を尋ねると、二つの答えが返ってきました。ひとつは、仕事のことです。
「より専門的な知識と技術を身につけ、周囲から信頼されるスタッフになりたいです」
そしてもうひとつは、生活のことでした。
「家族を呼びたいと考えているので、生活で困らせないように、日本語の勉強を頑張って上達させたいです」
自分が困らないためではなく、家族が困らないために日本語を学ぶ。トゥリさんが持つ在留資格「介護」は、介護福祉士の資格を取得した方が得られるものです。要件を満たせば家族の帯同も認められます。つまり「家族を呼びたい」という願いへの道は、トゥリさん自身が勉強を重ねて切り開いたものでもあります。だからこそ目線は、「呼べるかどうか」ではなく「呼んだ後の暮らし」に向いているのだと思います。

【解説】在留資格「介護」と、家族帯同
介護分野で働くための在留資格には複数の道筋があります。トゥリさんが持つ在留資格「介護」は、介護福祉士の国家資格を取得した方が得られるものです。在留期間の更新に回数の上限がなく、要件を満たせば家族の帯同も認められます。
一方、特定技能1号は在留期間の上限が通算5年で、家族の帯同は原則として認められていません。介護分野には特定技能2号の区分が設けられていないため、長期就労と家族帯同を実現する道筋は、在留資格「介護」への移行が中心となります。
つまり介護福祉士の資格は、専門職としての証明であると同時に、日本で長く働き、家族と暮らしていくための鍵でもあります。はあとふるあたごが会社として初任者研修の取得を支援し、資格取得のバックアップを行っているのは、この道筋を見据えたものと言えます。本人のキャリアの希望と、会社の育成方針が同じ方向を向いている形です。
初任者研修から、リーダー職へ
育成方針について、松井さんは具体的な段取りを示します。会社として初任者研修を取得させること。そのうえで、能力や意欲に応じたキャリアアップの機会を設けること。
行き先も明確です。正社員登用、そしてリーダー職への登用を目指せる環境づくりを進めています。研修や資格取得の支援も行っています。
「長く安心して成長・活躍できる人材育成を目指します」(松井さん)
介護分野では、資格の有無が担える業務とキャリアに直結します。会社が資格取得を支援するということは、単に費用を負担するという話ではなく、本人のキャリアの選択肢を広げるという意味を持ちます。
これから受入れを検討する県内企業へ
最後に、これから受入れを考える県内企業へのメッセージを伺いました。
「外国人材の受け入れは、人手不足を補うだけでなく、職場に新たな視点や活気をもたらします。企業の未来をつくる新たな可能性でもあります」(松井さん)
そのうえで、受け入れる側の姿勢を強調します。
「採用後の育成から定着まで責任を持って取り組み、共に成長する姿勢を大切にすることで、企業にとって大きな力となります。ぜひ一歩踏み出してみてください」(松井さん)
最初のお二人が去った理由を、自分たちの配慮不足として引き受けた。そこから支援機能を自社に持ち、人事責任者自らが学び、一人ひとりを見る目を養ってきた。その職場で、働きながら国家資格を取る人が育っている。「共に成長する姿勢」という言葉が何を指すのか、はあとふるあたごの4年間はその中身を具体的に示しています。
