長岡市からの提案が、始まりだった
サカタ製作所が抱えていた課題は、設計・製造部門、とりわけ本社での人材確保でした。
転機は2020年2月に訪れます。長岡市から、長岡技術科学大学の交換留学生によるインターンシップの提案があり、ベトナム・ハノイ工科大学の学生2名を受け入れることになりました。
「優秀で意欲の高い若手人材と出会えたことが決め手となり、その後も高度人材として数名を採用してきました」(樋山さん)
2022年3月には2名が入社。現在はベトナム出身の5名が、設計部門と製造部門で金属プレス加工や製品開発を担当しています。在留資格はいずれも「技術・人文知識・国際業務」、いわゆる高度人材のルートです。
ハノイ工科大学との継続的な関係は、いまも同社の外国人材受入れの原点であり続けています。
図面は写真と実物で。違いを尊重することを、全社の方針に
教育面で意識しているのは、日本語でのコミュニケーションを大切にしながら、伝え方そのものを工夫することです。図面や作業手順は、写真や実物を使って視覚的に伝えるようにしています。
製造の現場では、言葉の理解度と作業の理解度が必ずしも一致しません。言葉に頼りきらず、見て分かる形に置き換える。これは外国人材に限らず、新人教育全般の質を底上げする工夫でもあります。
もうひとつ特徴的なのが、これを個々の職場の努力に任せていない点です。名前や文化の違いを尊重し合うことを、ダイバーシティ&インクルージョンという社内方針として全社で共有しています。
「誰もが安心して働ける職場づくりを進めています」(樋山さん)
受入れの取り組みが「担当者の頑張り」で終わるか、会社の方針として明文化されるか。この違いは、担当者が異動したときに残るものが何かを分けます。
新しい視点が生まれ、社内の伝え方を見直すきっかけに
受け入れて変わったこととして、樋山さんはまず現場の発想の広がりを挙げます。多様なバックグラウンドを持つ人材が加わったことで、新しい視点やアイデアが生まれるようになりました。
変化はそれだけではありません。外国籍社員が増えるなかで、互いの違いを尊重する風土が育ち、社内コミュニケーションのあり方を見直すきっかけにもなったといいます。
「伝わっていると思っていたことが、実は伝わっていなかった」。外国人材の受入れは、しばしばこの事実を可視化します。伝え方を組み立て直す作業は、結果的に日本人社員を含めた全体の働きやすさにつながっていきます。

【解説】「技術・人文知識・国際業務」という選択肢
サカタ製作所が活用しているのは「技術・人文知識・国際業務」(通称・技人国)という在留資格です。理学・工学などの技術分野、法律学・経済学などの人文知識分野、そして通訳・海外取引といった国際業務分野の知識を要する職務が対象になります。
特定技能や技能実習と大きく異なるのは、原則として大学等での専攻内容と職務内容に関連性が求められる点です。その代わり、在留期間の更新に回数の上限はなく、要件を満たせば家族の帯同も認められます。設計・開発職として長く働いてもらう前提の受入れに適した資格です。
海外の理工系大学との接点を持つことが、そのまま採用ルートになる。サカタ製作所とハノイ工科大学の関係は、その代表的な例と言えます。
支援体制を、外部に委ねず社内に
今後の方針について、樋山さんは明確な考えを示します。高度人材に加え、特定技能制度も活用していく。そのうえで、支援体制を外部に委ねず社内に構築するというものです。
特定技能1号の受入れでは、支援計画の実施を登録支援機関に委託する企業が少なくありません。これを自社で担う選択は、負担が増える一方、本人の状況を会社が直接把握できるという利点があります。定着を長期の視点で考えるからこその判断です。
そして育成の先には、キャリアの道筋を用意します。
「高度人材に加え特定技能人材も育成し、長期的に活躍・定着してもらえるよう、リーダー職や正社員登用も視野にキャリアパスを整備していきます」(樋山さん)
長岡での暮らしも、自社で設計する
サカタ製作所の取り組みは、職場のなかだけに留まりません。ワークライフバランスを進めてきた経緯もあり、長岡での生活環境も自社で設計してきました。
その結果として、地域とともに多文化共生が進んできたといいます。
働く場所と暮らす場所は切り離せません。仕事に不満がなくても、生活が立ち行かなければ人は定着しない。地域のなかで暮らしが成り立つところまでを射程に入れているかどうかが、数年後の差になって表れます。
[社員インタビュー]マ ティエン マインさん
製造部 製造課 金型加工グループに所属するマ ティエン マインさんは、ハノイ工科大学の卒業生です。2022年3月に入社し、金型加工の業務を担当しています。

これから受入れを検討する県内企業へ
最後に、これから受入れを考える県内企業へのメッセージを伺いました。
「受け入れる側の体制づくりと、日本、さらに新潟の良さを知ってもらうことが何より大切だと感じています。採用の前に、社内で支える仕組みを整えることで、外国人材も企業も安心して長く歩んでいけます」(樋山さん)
そのうえで、一社で抱え込まないことを勧めます。
「まずは一歩、地域の仲間と情報交換しながら進めることをおすすめします」(樋山さん)
採用が先か、体制が先か。サカタ製作所の答えは明確に後者です。長岡市の提案から始まり、大学とのつながりを育て、生活環境まで自社で設計する。6年をかけて積み上げてきたその順序に、この会社の考え方が表れています。